カカニ農場

イチゴでムラおこし

力カニの大部分の男性たちは、出稼ぎをして金儲けすることで頭が一杯。農業に地味に取り組むことには、あまり関心を示しません。したがって、イチゴなどの農作物を育てる主力は女性たちです。日本の農業が「三ちゃん農業」(じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんの三ちゃん)と呼ばれていたのと、大差ないのが実態です。

イチゴ栽培は、村の女性たちが現金収入を得る、またとない機会として歓迎されています。伝統的な農業による現金収入はわずかでありそれだけでは貯金にまわりません。イチゴ栽培をはじめたら現金収入が増えたので、日々の支出に困らなくなりました。夫が家の屋根を草屋根からトタンに変えようとすると、主婦が自分の財布からお金を出すこともまれではなくなりました。お金は子どもの教育費になり、時にはテレビを買ったりもします。

彼の村と畑を訪ねていくつかのことがわかりました。

  1. 畑は、少し出っ張った斜面で、太陽の光を長い時間浴びるのに最高の立地である。
  2. 土にケイ酸塩が多く、太陽光を照り返してイチゴの裏側に光を当てている。そのため、イチゴがよく成熟し、また色づきが均等である。
  3. 彼の奥さんと娘さんが一日中イチゴ畑で、生育のよくない花や実を取り、抜き取った雑草で土床を覆い、水を丁寧に注ぎ、とにかく世話が行き届いている。驚いたのは、ジャイチの農場でまだ農民に伝えていなかった間引きの 技術を実践している。
  4. 売上は約1000平方メ十ルの土地で、4~5万ルピー(日本円で7万円) である。
  5. イチコ栽培技術はジャイチ農場と同じではないが、彼の技術はプロの域に達している。

イチゴの箱詰め
▲イチゴの箱詰め

イチコ栽培を始めてから、彼はよい現金収入が得られるようになったばかりでなく、幸運なことに男の子も授かったのです。娘ばかリ9人続いた後のことでした。今、彼の主な仕事は畑仕事でなく、朝4時に起きて7時までにイチゴをバス道路まで担ぎ上げ、バラジュに8時半に着いて卸業者に売り、10時半に家に帰ることです。家に帰ると、後は1日中幼い息子と遊びます。私たちはその息子のことを、イチゴ息子(ストロベリー・サン)と呼んで祝福しています。

この体験からこんなことを考えました。「広報やキャンペーンを通じて、村人にもっと効果的に技術や情報を広げる」とは、よく言われることです。しかし、広報やキャンペーンだけでは本当にそれを必要としている農家に伝 わらないのです。村には楽して金もうけをしたい人がいます。そういう人は最初は学ぶのに熱心ですが、実は勤労に励む農民ではないので長続きせず、 かえって農民に間違った情報が伝わってしまうことになります。一番大事なことは、生産物を販売しはじめた段階で、成功例を通じて実地に学ぶことではないでしょうか。実践の交流こそが成功への道筋ではないでしょうか。

農業開発事業成功の秘訣

カカニ農場は、新しい農業技術や農作物の導入・普及の成功例として、多くの見学者を受け入れています。100種類以上の農作物の導入実験を行ったなかで、イチゴが最も普及しましたが、キウイフルーツとサツマイモも成功例といえます。「なぜうまくいったのか」と、よく聞かれます。その疑問に答えてみたいと思います。

キウイフルーツ
▲キウイフルーツ

  1. 「研修」はしない!?
    農業は教えるにも学ぶにも年月を必要とします。ネパールの農民は読み書きが十分できないこともあって、目に見える成果がないとなかなか新しい技術を受け入れようとしません。ジャイチが採ってきた研修のスタイルの特徴は、名前に含まれているIT(In-service Training:在職研修)にあります。農民は実践によって一番よく学ぶことができます。地域の農民はヘルパーとして農場に雇われ、現地レートの労賃を得ています。そのときに、実地研修のために雇われているということを、実は農民は知りません。研修というと、お金を期待して集まってくる輩がいるからです。農民はヘルパーとして農場のあらゆる作業をし、農場でやったことを自分の畑でも実践するようになります。こうした農民がいわば「モデル農民」となって、ほかの農民たちが、彼らから見よう見まねで学んでいきます。
  2. マーケティングこそ最重要
    1994~95年ころ、指導員の松浦さんはたくさんのイチゴの苗を作り、まず力カニの農場にそれを移植した後、余った苗をヘルパーたちに配布しようとしました。しかし、彼等は持ち帰って自分たちの畑に植えることを拒否しました。「イチゴの栽培技術はあまりにも複雑で労力がかかり、ジャイチの農場のようにはできない」、これがその理由でした。そこで、松浦さんはかなりまとまった量のイチゴを収穫し、カトマンズの卸業者と話しをつけ、農場価格でキロ200ルピー(約300円)で売りました。イチゴの品質が最もよい11月から1月には、カトマンズでの小売価格はキロ600ルピー近くにもなりました。
    それを目の当たりにした農民たちは、イチゴが高価格商品であることに気付きました。45人ほどの農民が苗を求めて農場にやってきました。次の年は130人の農民がやってきました。でも、3年日は誰も苗を買いに農場に来ませんでした。農民たちがイチゴの苗の再生産に成功し、農民から農民へと配布されるようになったからです。
    最初の価格設定を高めに決めたことによって、その後400軒以上の農民が大量にイチゴを作るようになってからも、比較的高い値段を維持することができています。
  3. 新しい物は持ち込まない!?
    カカニ農場では、地域で手に入る物資や道具を使っています。使い慣れたものを少しずつ改良したほうが、継続的な使用に耐えるし、無理なく購入できると考えたからです。外国からの援助を受けなれている人たちからは、「なぜ高性能の機械を買ってもらえないのか」という疑問を呈されますが、これはジャイチの仕事全体を貫くマインドです。どんな国、どんな現場でも適応できる原理と考えています。
  4. 現場で再生産のできる種苗
    ジャイチが導入に成功した換金作物(イチユキウイフルーツ、サツマイモ、ダイコン)は、他の農作物と違って、苗を買う必要がありません。日本からの支援や種苗会社に依存することなく、農民自身が育てた作物を母株として、自ら苗を作ることができるという利点があります。
  5. 残された課題
    ジャイチの農業開発事業が成功したと言い切るのは早すぎるかもしれません。地域の農業開発の潜在力はまだあるでしょうし、マーケットに対応した農産物の質の改善や共同選果・出荷体制づくり、付加価値を高めるための観光農園事業の立ち上げなど、やるべきことはたくさんあります。皆様のご支援、ご助言を期待しています。